1979
昨年、青画廊の個展会場で。寺山修司さんが、「あ、この人は、物が持つ本来の意味を剥奪して、世界を再構築しているんだな」とつぶやかれました。それは、微細なコンピューター半導体を、透明なプラスチック箱の中に密集して並べた作品でした。目をこらして見ると、白いTシャツにぶらさがっている7つの箱の透明なふたの中には、凝縮された個々の宇宙が存在しています。これは、私なりのコラージュでした。
さらに昨年、生前のジム・モリソンの詩と朗読の声、未発表のライブ・テイクをコラージュ編集した「アメリカン・プレイヤー」のアルバムから受けた強い衝撃が、今年のコレクションのテーマとなりました。1979年9月
「COLLAGE コラージュ」
9月4日 5日/草月ホール
構成・演出/秦 砂丘子
グラフィック・デザイン/西 哲 ,矢野雅章
照明/藤本晴美
音楽/網中秀雄
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
デザインをしているとき、くり返し現われる光景に、ニューヨーク、セントラル・パークに立つ高層ホテルの窓から見た、光と影の苛酷な映像の世界がある。雲の上の部屋と同じ高さで、山のようにそそり立つ、パークをはさむ左右のビル。端のほうは、空の遠くまでいき、それと溶け合っている。朝早く、一方の群影は、すばやい光の走りとともに、硬質な白と変わる。まだ一方は、深い黒。正午には、左右の壁は、白で連なる。夕焼けのある時間には、一方のビルは全身が鏡となって、焼け焦げた陽を写しとる。他方はもう、闇の中に沈んでいる。
この、1日の時間差変化の色のできごとを、1か月楽しんだ。それは、いつも、エンドレスにくり返す波の音と重なって現われる。
「都市&ボデイ」
9月2日/大阪:芦屋ルナ・ホール
9月7日 8日/東京:草月ホール
構成/日向あき子
演出/浅井慎平
グラフィック・デザイン/永井一正 , ミッシェル・グランジェ
イメージ・シンセサイザー/坂本正治
照明/沢田祐二
音響構成/浅井慎平
音響/小島和明
舞台監督/景山民夫
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
大学を出る年、初めて色に出会った。四六時中、色と形に囲まれた画家の環境に育ったのに。感動した色、養母の色とともに8年を過ごす。8年後、色を仕事にしていきたいと決断する。一人立ちして5年後のある日、色は色だけで存在し得ないと突然悟り、愕然となる。
色は、私にとって、言葉である。文字は、記録するのにさまざまな活字体を使えるが、私にとっては、できれば平明、端的なものが望ましい。それで、色も、形や素材感をできるだけ取り去った純粋なものが好みに合う。
たとえば、キャンバスにただ1色のブルーを塗ったクラインの「インターナショナル イブ クライン ブルー」。人の手の痕跡が見えない、印刷のように均質なブライト・ブルー。 これを見ていると、輝かしいカンヌの青い空や海が見えてくる。私にとって、ポエティックな色や配色は、記号のように感情を宿さないもののなかにあるようだ。
「その手袋さえはめていれば鏡なんて、わけなく通りぬけられる」
9月13日 14日/東京:プレスセンター
9月17日/大阪:芦屋ルナ・ホール
構成/秦 砂丘子
演出/日野原幼紀
照明/沢田祐二
音楽/イミテーション ムーン・ライト, QUINTESSENCE
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
先日、車のゆきかうアスファルトの道で、その裂けめから頭をもたげ、青く咲いている1本の雑草を見つけました。車を降りて調べてみると、一握りの砂があり、草はそれを拠点にのびていたのです。
考えてみると、私たちの環境である大都会のコンクリートの壁にも、すべて砂が混ぜられてつくられているのです。この砂という微粒子からの発想が、今回のコレクションになったのです。1976年 9月
「砂 SAND」
9月9日 10日/ABC会館
構成/秦 砂丘子
演出/日野原幼紀
照明/沢田祐二
音楽/イミテーション ムーン・ライト
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
テーマは、LIVE! アレン・ギンズバークの詩「僕のヒナ菊を摘もう」がデザイン発想のもとになりました。
僕のヒナ菊を摘もう
そして、僕のコップを飾ろう
ドアをみんな開け放ち
僕の思惑を断ち切ろう (諏訪 優 訳) 1975年 8月
「LIVE」
8月28日/パルコ・西武劇場
構成/秦 砂丘子
演出/日野原幼紀
照明/沢田祐二
音楽/イミテーション ムーン・ライト
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
猫が好きだ。と同じくらい、色も好きだ。デザインするとき、色と対話するのがくせになっている。 細い1本の色の糸と……。色は抽象的なものだから、無限の広がりを持つ。1本のブルーは、海、空、鳥、土地、砂……と限りなく変化していく。その色の物語る言葉を、私はそのまま私の言葉に変えていく。
「ある時、色は閃光を発する」
8月29日/ヤクルト・ホール
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
照明/有馬裕人
音楽/イミテーション ムーン・ライト
ヘア・メイクアップ/川邊サチコ
フラワーデザイン/西原可代子
1949年にジャン・コクトーによってつくられた「オルフェ」の映像は、当時の私を驚かせました。詩人である彼が言葉ではなく、フィルム、それも動く視覚的なものの中に、彼の想念を成形化したという理由で。時おり、私が考えることの一つに、人間の頭脳や心に、電子受信機を接続して、そのまま動く文字にしたり、カラー映像に記録してみたらどうだろうかなどということがあります。
この映画のストーリーは、ギリシャ神話の「ORPHEUS」からのもので、舞台は第2次大戦後のサンジェルマン・デ・プレ。 詩人オルフェとそれを囲む実存主義の芸術家たちがその日常性として登場します。 当時、私が興味を持ったのは、非常に小道具っぽい断片でした。 死が乗ってくる黒いオートバイのかっこよさ。それにヘルメットとゴーグル。ガレージのカーラジオからもれる、死の国からの交信音。
日常と、それを超える世界の間に置かれた1枚の鏡。その鏡を通るためには、ビニールの分厚い手袋が使われます。 死の国の黒い巨大な壁の間を行くオルフェの不思議な歩み……。 これらはその後、ヒューストン宇宙センターとアポロ衛星との間のこごもった会話音やクレージュの白い手袋、宇宙遊泳などと遭遇した時の感触と似ていた気がします。
ロートレアモンの「解剖台の上でミシンとこうもり傘が偶然に出会ったように美しい」とでもいうことでしょうか。
さて、しかし、今は1973年。この公害の日常性のなかで、どういうことか、私は「オルフェ」を思い出したのです。自分のなかにより深く入っていく気持ちと、それでいて何かをしなくてはならないという二つの気持ちの相剋が、私にそれを思い起こさせたのかもしれません。 1973年 9月
「オルフェ」
9月17日/パルコ・西武劇場
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
美術/柳沢まち夫
照明/有馬裕人
音楽/日野原幼紀
ナレーター/金内吉男
ヘア・メイクアップ/芝山サチコ
今年のテーマに、絵画の世界を選びました。 絵画は、平面的なキャンバスのみにいつも描かれるものとは思っていませんが、一応、区切られた空間の、ある平面を埋めるものと解釈してもいいでしょうか。 服飾の仕事に携わっていて、たえず私が考えることの一つに、この平面と立体の問題がありました。
どちらから出発していっても、どちらかに帰着するこの二つの命題は、一度、真剣に取り組みたい、興味のあることでした。
今回、私は、ストールという手段を使って、平面が予期しないで作る立体と、立体化されて作られたきものとを同時に考えてみました。 作品を見せるための架空の画廊を設定してみると、次から次へと断片的に、さまざまな絵が登場してきたのです。それを気の向くままに取り上げてみたのが、今回の試みなのです。
「私の画廊」
8月4日/イイノ・ホール
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
美術/豊島 孝
照明/有馬裕人
音楽/日野原幼紀
ヘア・メイクアップ/資生堂
今、南仏 コート・ダジュールのそば、ムジャンヌという村に滞在しています。 4月初めに日本を発って、シベリアを越え、ポーランド、チェコ、オーストリア、イタリア、フランス、スペイン、ポルトガルと、気ままに旅行を楽しみ、ここに落ち着きました。
ロシア以外の国は、すべて車で回りましたので、それぞれの国の太陽、海、花、木々、家々のたたずまい、そして土の香りは、私に贅沢な夢みるときを与えてくれました。
今回のコレクションは、そんな私の思いを託した作品で構成されています。
「白樺・海・太陽・花 ロシア、ヨーロッパ紀行」
8月10日/帝国ホテル
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
美術/豊島 孝
照明/有馬裕人
音楽/日野原幼紀
言葉/秦 砂丘子
ナレーター/矢島正明
ヘア・メイクアップ/芝山サチコ
今回は、フランスの女流画家レオノール・フィニィの絵からの私の創造をテーマにしました。
レオノール・フィニィは、1908年、ブエノスアイレスで生まれました。 父はアルゼンチン人、母はイタリア人でした。そのうえに、先祖には、スペイン系、スラブ系、ドイツ系、ナポリ系の血が混じっていたようで、こうした血の背景が、その作品に現われる心象の変化と何か深い関係があるような気が、私にはするのです。
あるときには悪魔っぽく暗く"死"の世界を描き、鋭利な刃物のように理知的で冷徹であるかと思えば、あるときは蒼く深く幻想の世界にも入り込むのです。 また、白々として柔らかく、甘い世界にいるのかと思えば、爬虫類のように油っぽく、重く粘りだす。そのあげく一転して、不思議にカラカラとした地中海の太陽もそなえていたりするのです。
情熱があふれるときには、色の乱舞が始まり、花々もワイングラスも、宝石のように底光りして輝き出すのです。 私は何年か前、フランス滞在中に、友達の書斎の中で偶然に、彼女の描く黒と白のデッサン集を発見しました。 そのとき、何かが私のなかで始まったのでした。それは、興味というより、激しい恐れのようなものでした。 1970年 7月
「レオノール・フィニィの世界」
7月28日/帝国ホテル
構成/秦 砂丘子
演出/秦 砂丘子、高樋洋子
美術/小林○夫
照明/有馬裕人
照明美術/西原可代子
音楽/日野原幼紀
ナレーター/矢島正明
ヘア・メイクアップ/芝山サチコ